調査研究報告書

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 破骨細胞形成抑制効果と図1に示した化学構造との関連性を比較してみると、大豆イソフラボンのGenistein はA環の5、7位とB環の4' 位に、3つの水酸基が結合しており、Daidzeinは、A環の5位とB環の4' 位に2つの水酸基が結合している。一方、今回の実験で骨芽細胞の形成を抑制したBiochanin Aは、A環の5、7位に2つの水酸基が、B環の4' 位にメトシキシル基が結合しており、Ipriflavoneの場合も、B環には水酸基やメトシキシル基などの官能基は結合していないが、Genisteinと同様な効果が報告されている。なお、IpriflavoneのA環の7位には、水酸基ではなく、イソプロピル基が水酸基にエーテル結合しているが、生体内では、肝臓内で代謝され、イソプロピル基がはずれ水酸基に代わることが知られている。さらに多くのイソフラボンについて調べる必要があるが、今回の実験と過去の報告からエストロゲン受容体との親和性は、A環の7位の水酸基と、A環にベンゾピランが縮合したクロモン環、またはエストラジオールのようにフェノールに縮合したシクロヘキサンの形が必須であることを示唆している。しかし、今回の細胞培養の実験でIpriflavoneが破骨細胞の形成を抑制したことから、A環の7位には、必ずしも水酸基が結合していなくても良いかもしれない。
 破骨細胞の作用機構に関する研究では、骨髄細胞を培養し、骨芽細胞と破骨細胞の共存下で破骨細胞の分化過程を観察しているものが多い。今回の実験では、骨芽細胞を含まない破骨細胞について、その分化誘導に対するイソフラボンの抑制効果について調べ、大豆イソフラボン以外にも破骨細胞の形成を抑制することを明らかにした。
 なお、今回の骨芽細胞実験で、Biochanin AとIpriflavoneの添加は0.1〜10μMの濃度範囲で行ったが、伝統的な日本食を摂っている日本人のイソフラボン血漿中濃度は、0.1μM〜1μM程度といわれていることから、適切な濃度での実験であったと考えている。Biochanin Aが、1μM以下の濃度で破骨細胞の形成を抑制したことから、大豆イソフラボン以外にも骨粗鬆予防または治療効果のある化合物が見つかる可能性があり、現在、そのスクリーニングを実施している。
 一方、ハーブは古代から防腐効果や抗酸化性をもつことが知られ、食物の劣化を防ぐ手段に使用されてきた。最近ではさまざまな疾病の原因とされる活性酸素などのフリーラジカルを消去する、いわゆる生体内抗酸化活性を示す化合物が報告されている。中でもシソ科に属するハーブのローズマリー、オレガノ、ハッカ、セージ、ペパーミントには、抗酸化活性の強いロズマリン酸が存在することが知られている。当研究室では、オレガノから得られた水溶性ポリフェノール粗抽出物と新規ポリフェノールのOreganolが、ラットの血清コレステロール濃度の上昇を抑制することを明らかにした。大豆イソフラボンは、破骨細胞の形成を抑制し、骨芽細胞を刺激する以外に血清コレステロール濃度の改善作用があることが知られている。
そこで、今回、オレガノ、ヒソップから得られた水溶性ポリフェノール抽出物(Oregano-extract とHyssop-extract)の破骨細胞形成に対する抑制効果を、イソフラボンの場合と同様の方法(破骨細胞数の計測)によって調べた(図5および図6)。
 Oregano-extractを添加した場合、図5に示したように濃度依存的に破骨細胞形成を抑制することが確認された。すなわち、10μg/ml 添加では、滅菌水だけのControlに比べ29%減と有意な抑制効果を示し、200?g/ml添加では破骨細胞形成を完全に抑制した。200μg/ml添加において、破骨細胞は、単核細胞から紡錘型までは、分化したが、それ以上の分化は観察されなかった。多核に融合する分化過程におけるOregano-extract の阻害機構は明らかではないが、オレガノ中のポリフェノールが破骨細胞形成に対して何らかの作用によって抑制すると推定される。同様に、Hyssop-extractを添加した場合も破骨細胞形成に対する濃度依存的な抑制効果がみられた。すなわち、10μg/ml 添加で、Controlと比較して42%も有意な抑制効果を示した。50μg/ml 添加で、76%抑制し、100μg/mlと200μg/ml添加では、最も顕著な抑制効果(91%抑制)を示した。今回使用したOregano-extract、
Hyssop-extractには、強い抗酸化性を示し、HPLC分析の結果、数種類以上のポリフェノールが検出
されているので、現在、これらのハーブから破骨細胞形成を抑制する有効成分を単離、精製中である。

II ラット骨芽前駆細胞の分化誘導に及ぼすイソフラボン化合物およびフェノール性

アミドの影響

目的
 前節で述べたように骨量は骨形成に関与する骨芽細胞と、骨吸収に関与する破骨細胞のバランスによってコントロールされている。大豆イソフラボン(Genistein、Daidzeinなど)には、破骨細胞に対する抑制効果と骨芽細胞に対する促進効果が認められている。
 Iの実験で、Biochanin AとIpriflavoneが破骨細胞形成に抑制効果のあることを明らかにしたことから、Biochanin AとIpriflavoneにも大豆イソフラボンと同様の効果が期待される。
 そこで、本研究では、骨芽前駆細胞MC3T3-E1を用いて、その分化誘導の指標であるアルカリホスファターゼ(ALP)活性を測定することによってBiochanin AとIpriflavoneの影響を調べた。
 また、イソフラボンのようなクロモン骨格を持たないポリフェノールがMC3T3-E1の分化誘導に対する影響についても調べた。今回実験に使用したポリフェノールは、著者が以前、抗酸化活性物質としてビート種子から単離、構造決定し、有機合成したフェノール性アミド化合物(Amide 1とAmide 2)を用いた。図7に示したように、Amide 1(N-trans-Feruloylthomovanillylamine)は、フェルラ酸とHomovanillylamineがアミド結合したもので、Amide 2(N-trans-Feruloyltyramine)は、フェルラ酸とTyramineがアミド結合したものである。

実験方法
 1)骨芽前駆細胞株MC3T3-E1の培養方法  
 細胞は24 well plateに2.0x104 cellsになるように播き、10%仔牛胎児血清を添加したα-MEM中で培養した。セミコンフルエントの段階でメディウム(1 ml)の交換と同時に、試料を最終濃度が0.1、1、10μMになるようにDMSOに溶解した試料溶液(1μl)を、添加し、4日間培養した。その後、細胞をPBS中で超音波粉砕した。破砕した細胞を骨芽細胞の分化指標であるALP活性を測定した。さらにALP活性をDNAあたりで算出するため、プレートリーダーを用いてDNA量を蛍光測定し、ALP活性はU/μg DNAで表した。
 なお、骨芽細胞は、平敏夫氏(ホクドウ株式会社;現在、プライマリーセル株式会社)から供与して頂いたものを使用した。

結果と考察
 骨芽前駆細胞MC3T3-E1分化誘導におけるイソフラボン(Biochanin AとIpriflavone)とフェノール性アミド(Amide IとII)の影響について調べた。
 Biochanin A の骨芽細胞の分化マーカーであるALP活性に及ぼす影響について調べた結果、図7に示したように、Controlの活性と比較して、有意な差は認められなかったが、10μM添加でその活性が高くなる傾向が認められた。Biochanin A を添加した場合の骨芽細胞MC3T3-E1のDNA量には、Control と比較し有意な差は認められなかったが、やや減少する傾向がみられた。
Biochanin Aは細胞増殖を引き起こすことなく骨形成を促進する可能性が示唆された。
 Ipriflavoneの場合も、Biochanin Aと同様にALP活性は、Controlの活性と比較して、1.0μMまで有意な差は認められなかったが、10μM添加でその活性が有意に高くなった(図8)。

 次に、骨芽細胞MC3T3-E1の分化指標であるALP 活性に及ぼすAmide 1の影響を調べた結果、図10に示したように Controlの活性と比較して0.1、1、10μM添加で有意にALP活性が上昇した。Amide 1を添加した場合の骨芽細胞のDNA量は、Controlに比べ有意な差は認められなかった。この結果、Amide 1は、濃度依存的に骨芽細胞の分化誘導を促進することが明らかとなった。

 次に、MC3T3-E1のALP活性に及ぼすAmide 2の影響について調べた結果、図11に示したようにControlのALP活性と比較して濃度依存的に活性が上昇した。Amide 2 を添加した場合の骨芽細胞MC3T3-E1のDNA量は、Amide 1を添加した場合と同様に有意な差は認められなかった。

 以上の結果から、Amide 2の場合もAmide 1と同様に、濃度依存的に骨芽細胞の分化を誘導することが明らかとなった。このようにイソフラボンのような複素環式ポリフェノール以外の非複素環式(単環式)ポリフェノールにも、骨芽細胞の分化誘導を促進する作用のある化合物が見つかったのは、今回が初めてである。現在、他の植物性食品から、破骨細胞の増殖の抑制または骨芽細胞の分化を誘導する有効成分を検索中である。

参考文献

1)松本敏夫:骨シグナルと骨粗鬆症 羊土社(1997)
2)Yamaguchi, M. and Gao, YH.: Inhibitory effect of genistein on bone resorption in tissue culture,
 Biochem. Pharmacol., 55, 71-76 (1998).
3)Gao, YH. and Yamaguchi, M.: Inhibitory effect of genistein on osteroclast-like cell formation in
 mouse marrow culture, Biochem. Pharmacol., 58, 767-772 (1999).
4)家森幸男、太田静行、渡邊昌 編:大豆イソフラボン 幸書房 (2000)





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