調査研究報告書

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  藤女子大学 人間生活学部 食物栄養学科 教授/知地 英征


はじめに

 骨粗鬆症は、老人だけではなく、閉経後の女性にも多く見られる。女性ホルモンのエストロゲンは卵巣で作られるが、閉経後に、その産生能力が低下してくる。このホルモンは、骨を作るのを助け、骨が壊されるのを防ぐ働きがある。
 一方、直接骨の形成に関係している細胞には、軟骨細胞、骨芽細胞、骨細胞、破骨細胞があるが、特に重要なものに、骨を作る細胞の骨芽細胞と、骨を壊す(骨を吸収する)細胞の破骨細胞がある。これらの細胞のバランスによって骨量が一定に維持されている。すなわち、古い骨を吸収し、新しい骨に置き換える作業を常に繰り返している。このように骨が吸収と形成を繰り返している現象をリモデリング(骨改造現象)という。老化や閉経によって、このリモデリングのバランスがくずれ、骨吸収が勝ると骨粗鬆症になってくる。その治療法にエストロゲンのホルモン補充療法があるが、副作用があるため、長期使用が制限されている。そのため、副作用の少ないエストロゲン様薬剤の開発が望まれている。骨粗鬆治療薬としてビタミン(D3やK)やイプリフラボン(Ipriflavone)が知られているが、Daidzein、Genisteinなどの大豆イソフラボン(3‐フェニルクロモン骨格を持ったポリフェノールの一種)は、副作用の少ない骨量低下抑制因子として注目されている。しかし、その他のポリフェノールについての骨代謝に関連する研究は非常に少ない。
 そこで、本研究では、イソフラボン(Biochanin AとIpriflavone)とハーブ・ポリフェノール抽出物の破骨細胞の形成抑制効果、及び上記のイソフラボン(Biochanin AとIpriflavone)とビート種子から単離したフェノール性アミド(FeruloylhomovanillylamineとFeruloyltyramine)の骨芽前駆細胞の分化促進効果について調べた。

抽出物の影響

目的
 マメ科植物に多く含くまれているGenistein、Daidzeinなどの大豆イソフラボンは女性ホルモンのEstradiolと類似構造を有しているため、エストロゲンレセプターに対する親和性が大きく、骨量減少の予防効果、骨形成刺激効果や骨吸収抑制効果のあることが明らかとなっている。また、破骨細胞形成抑制効果や破骨細胞の分化を抑制することも報告されている。そこで、その他のイソフラボンやポリフェノールについての破骨細胞形成に対する抑制効果を明らかにする目的で、イソフラボンとしてBiochanin A、Ipriflavoneと、ハーブ・ポリフェノール抽出物を用いて、実験を行った。
 なお、本実験に使用するイソフラボンは脂溶性物質であるため、共溶媒のジメチルスルフォキシド(以下DMSOと略す)に溶解して使うことにしたが、DMOSO自身が、ラット破骨細胞の形成を阻害する可能性があるので、破骨細胞形成に影響の出ない添加濃度を調べた。

実験方法
1)試料の調製
 Biochanin AとIpriflavoneは、0.4%DMSO滅菌水溶液に溶解し、培地中の最終濃度が0.1μM ~10.0μMになるように調整した。
 オレガノとヒソップの 乾燥葉粉末(各3kg)を70%エタノールで抽出後、吸引ろ過した。ろ液は、減圧濃縮しエタノールを除いた後、ダイヤイオン(H+ 型)カラムに吸着させ、水で洗浄後、70%エタノールでポリフェノールを溶出した。溶出液を減圧濃縮し、溶媒を留去後、水に溶解し、凍結乾燥し、オレガノ粗ポリフェノール画分として161.18g、ヒソップ粗ポリフェノール画分として 139.1gを得た。各々の粗ポリフェノールを超純水に溶解後、フィルターろ過滅菌をおこない、培地中濃度が10〜200μg/mlになるように調整し添加した。
2)破骨細胞の培養方法とメディウムの調製
 洗浄用メディウムにはα-MEM(CaCl2; 200.0, KCl; 400.0, MgSO4; 98.0, NaCl; 6800.0, NaHCO3; 2200.0, NaH2PO4・H2O; 140.0, D-Glucose; 1000.0, Lipoic acid; 0.2, Phenol Red; 10.0, g/L)に仔牛胎児血清を15%加えたものを用いた。培養用メディウムは、上記の洗浄用メディウムにマクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、破骨細胞分化因子(RANKL)を加えたものを用いた。リン酸緩衝液(PBS)は、Ca、Mgを含まない組成(Glucose anhydr.; 1000, KCl; 400,NaCl; 6800, NaH2PO4・H2O; 140, Phenol Red Na salt; 10, Na2CO3; 2200, mg/L)のものを使用した。
 破骨細胞の培養は、次の方法によって行った。凍結ラット破骨前駆細胞を使用時に、37℃の水浴中ですばやく解凍した。その細胞を15ml容量の遠心管に移し、洗浄用メディウム10mlを加えピペッティングでよく攪拌後、4℃、1000rpmで5分間遠心分離を行った。アスピレーターを接続したパスツールピペットで上澄液を吸引除去した。この操作を2回行った後、培養用メディウム(M-CSF, RANKL含有)を5ml加え、ピペッティングで攪拌し、細胞浮遊液を96 Well Plateに100μlずつ分注した。翌日、細胞がWellの底面に接着してからサンプルを1μl(メディウム量の0.1%)添加した。すべての操作はクリーンベンチ内で行った。なお、破骨細胞は、平敏夫氏(ホクドウ株式会社;現在、プライマリーセル株式会社)から供与して頂いたものを使用した。
3)TRAP染色
 破骨前駆細胞を播種後、培養5日目ぐらいから数個の細胞が融合した破骨細胞が観察されるので、7日間培養した後、酒石酸抵抗性フォスフォターゼ染色(TRAP染色)を行い破骨細胞の細胞数を計数した。染色直前に発色基質(ナフトール AS-MSリン酸)と50mM酒石酸含有緩衝液を混和しておき、メディウムを除去後、PBS 100μl を加え洗浄した。PBSを除去した後、固定液50μlずつを加え、室温で5分間静置した。静置後、蒸留水250μlで3回洗浄し、前もって調製しておいた発色基質と50mM酒石酸含有緩衝液の混合液50μlずつを加えた。37℃で染色状態を観察しながら20分から60分加温した。良好な発色を確認した後、蒸留水で洗浄した。赤くTRAP染色された3核以上の多核細胞を破骨細胞として計数した。
4)統計解析
 図及び表中の数値は平均値ア標準誤差で示した。各データの統計解析にはStatViewを使用した。有意差検定にはFisherのPLSDを用い、有意水準は1 %または5%で行った。

結果及び考察
 イソフラボンの破骨細胞形成実験を始める前に、水に難溶性または脂溶性物質を溶解するのに使われる共溶媒のDMSOが破骨細胞形成に及ぼす影響を調べた。各濃度でDMSOをメディウムに添加し破骨細胞を培養した結果、TRAP染色によって赤く染色された破骨細胞数は、0.5%以上の添加で、無添加のControlに比較して濃度依存的に有意に減少した(0.5%添加:29%減、0.6%添加:41%減、 0.8% 添加:73%減、1%添加:100%減)。なお、0.4%および0.2%の添加濃度における細胞数は、Controlと有意差がなかった。  これらの結果から、DMSOのメディウムへの添加濃度が0.4%以下では破骨細胞形成に影響を及ぼさないことが確認された。そこで、実験試料を溶解するDMSOの最終濃度を0.4%とした。
 2種類のイソフラボンを各濃度で添加し、培養後、DMSOの実験と同様にTRAP染色した破骨細胞数の計測によってこの細胞の形成量を調べた。
 Biochanin Aを添加した時の形成された破骨細胞数は、図2に示したように無添加のControl(100%)に対して、0.1μM添加で26%減、1.0μM添加で38%減、10.0μM添加で71%減と有意に低い値を示した。Biochanin Aは、レッドクローバーに含まれ、Genistein のB環のOH基がメトキシル基になっているイソフラボンである。今回の実験結果から、イソフラボンのエストロゲン様活性は、そのB環に必ずしも水酸基が必要でなく、メトキシル基が結合していても破骨細胞の形成を抑制することが明らかとなった。
次に、Ipriflavone を添加した時の破骨細胞の形成に対する影響を調べ、その結果を図3に示した。

 次に、Ipriflavone添加による破骨細胞数は、Controlの細胞数に対して0.1μM添加で26%減、1.0μM添加で36%減、10.0μM添加で71%減と有意に低い値を示した。
 このIpriflavoneは、はじめ牧草のアルファルファ(ムラサキウマゴヤシ)から単離されたイソフラボンで、骨粗鬆治療薬として使われており、骨量減少抑制作用が認められている。この作用機構は、破骨細胞の活性抑制および骨芽細胞の活性刺激作用によるとされているが、今回の実験で、その再現性を確認することができた。

 比較のため、女性ホルモンの17β-Estradiolの破骨細胞形成に及ぼす影響についても調べた結果、図4に示したようにBiochanin A、及びIpriflavoneを添加した場合と同様に破骨細胞形成に対し濃度依存的に有意な抑制効果を示した(0.1μM添加で39%抑制、1.0μM添加で50%抑制、10μM添加で94%抑制)。
 以上の結果から、大豆イソフラボン以外のイソフラボンでも、ラットの破骨細胞に直接作用し、破骨細胞形成を抑制することが明らかとなった。





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