調査研究報告書

HOME



<<もどる

 アントシアン系色素は抗酸化作用があることが報告されており、この抗酸化作用が生理機能に大きな役割を演じると考えられている。糖尿病では活性酸素やラジカルの生成系とSODなどの消去系のバランス異常により、酸化ストレスが増加することがわかっている12,13)。抗酸化作用を持つ薬剤やビタミンCやEを糖尿病モデル動物に摂取させた研究はすでに行われている24,25)が、黒米が血糖値の上昇を抑制したという報告は見当たらない。しかし、今回の結果からアントシアン系色素が、血糖値上昇の抑制作用に関与している可能性が考えられた。ムラサキサツマイモの色素成分には血糖値上昇の抑制作用があること、そしてこの機序としては?‐グルコシダーゼの阻害作用であることが報告されている26,27)。そこで、II‐DMラットを用いて麦芽糖液投与による耐糖試験を行い、黒米の糠の作用について検討した。黒米糠抽出液含有麦芽糖液を投与した群の血糖値は、麦芽糖液のみを投与した群に比べ、血糖値の上昇および△AUCに有意な差を示さなかった(図5、6)。II‐DMラットにおいて、黒米の糠を投与することによって血糖値の上昇を抑制した作用はα‐グルコシダーゼの阻害作用ではない可能性がある。
II‐DMラットにおいて、黒米の糠を摂取することにより血清インスリン量が上昇する傾向がみられた(表3)。黒米の糠にはII‐DMラットの血清インスリン量を上昇させる作用があるのかもしれない。I‐DMおよびII‐DMラットに対する血糖値上昇の抑制作用についての詳細な作用機構についてはさらに検討する必要がある。
 糖尿病を発症した際、血中TCやTGの上昇、そして血管、腎臓、神経などに対して合併症がおこる。これらの作用が抗酸化物質により抑制される可能性もあるため、黒米糠を摂取することによってTC、TGなどの血清値が変化するかを検討した。その結果、I‐DMにおいて上昇した血清TG、TC、FCおよびNEFAは、黒米糠含有飼料を摂取することにより改善作用が見られ、II‐DMラットにおいて上昇した血清TGも黒米糠含有飼料を摂取することによりわずかな改善作用がみられた(表4)。
 抗糖尿病薬として使用されているトルブタミドやグリベンクラミドは、薬物摂取後低血糖を起こすことが知られている25)が、今回の実験では黒米の糠を摂取しても低血糖を起こすことはなかった。血糖値上昇を抑制する食品を摂ることにより、抗糖尿病薬が不要もしくは量を減らすことが可能になるかもしれない。
 以上の結果より、黒米の糠層に含まれている色素には、糖尿病の際に上昇する血糖値、および血清値の異常を改善させる作用があることが推察された。

文献

1) 読売新聞 1998年3月19日
2) 袁佐民、何普明、竹内久直:新生児期にストレプトゾトシンを投与して誘発した糖尿病ラットにおけるキク
 ラゲ(Auricularia auricula-judae Quel.)の血糖値およびインスリン分泌に及ぼす改善効果、日本栄養・食
 糧学会誌、51、129‐133(1998)
3) 堀尾拓之、大鶴勝:実験的糖尿病発症ラットにおいてマイタケ投与が耐糖能および尿糖排泄に及ぼす効
 果について、日本栄養・食糧学会誌、48、299‐305(1995)
4) 戸田和正、中村丁次:食物繊維ガラクトマンナンの食後高血糖並びに血糖コントロール状態(HbA1C)に
 及ぼす影響、56、101‐104(1998)
5) 池上幸江、大澤佐江子、町田聖子、羽田明子:正常ラットとマウスの血糖値及び血清・肝臓脂質に対す
 る精製とうもろこし食物繊維の影響、栄養学雑誌、55、111‐118(1997)
6) Y. Kondo et al.:Effect of water-soluble chitosan on non-insulin-dependent diabetes mellitus in
 mice induced by streptozotosin, Jpn. J. Pharmacol., 82, 268P (2000)
7) 科学技術庁資源調査会:五訂食品成分表2000、女子栄養大学出版部、東京 p410(2004)
8) 苅部英寿:機能性食品「黒五」の抗菌作用について、旭川大学女子短期大学部紀要第25号、37‐45、
 (1998)
9) 苅部英寿:酸‐アルコール液により抽出した植物性色素の抗菌作用について、旭川大学女子短期大学
 部紀要第27号、29‐38、(1999)
10) 苅部英寿:糖尿病ラットに対する機能性食品「黒五」の改善・予防作用、旭川大学女子短期大学部紀要
 第30号、57‐65、(2001)
11) 日本栄養・食糧学会監修:疾患モデル動物、建帛社、東京 26‐31(1994)
12) 村上哲雄ら、糖尿病と酸化ストレス、臨床栄養、92、362(1998)
13) 鈴木敬一郎、谷口直之、活性酸素種と疾病、栄養と健康のライフサイエンス、4、35‐42(1999)
14) S. Renaud and M. DE Lorgeril:Wine, alcohol, platelets, and the French paradox for coronary heart
 disease, Lancet, 339, 1523‐1526(1992)
15) K. Mizutani et al.:Extract of wine phenolics improves aortic biomechanical properties in stroke-
 prone spontaneously hypertensive rats (SHRSP), J. Nutr. Sci. Vitaminol, 45, 95‐106(1999)
16) E. Andriambeloson et al.:Nitric oxide production and endothelium-dependent vasorelaxation
 induced by wine polyphenols in rat aorta, Br. J. Pharmacol., 120, 1053‐1058(1997)
17) W. R. Stanton and B. J. Francis:Ecological significance of anthocyanins in the seed coats of the
 Phaseoleae, Nature, 211, 970‐971(1966)
18) T. Tsuda et al.:Antioxydative pigments isolated from the seeds of Phaseolus vulgaris L., J. Agric.
 Food Chem., 42, 248‐251(1994)
19) M. T. Satue-Gracia et al.:Anthocyanins as antioxidants on human low-density lipoprotein and
 lecithin-liposome systems, J. Agric. Food Chem., 45, 3362‐3367(1997)
20) H. Wang et al.:Oxygen radcal absorbing capacity of anthocyanins, J. Agric. Food Chem., 45, 304‐
 309(1997)
21) P. M. Abuja et al.:Antioxidant and prooxidant activities of elderberry (Sambucus nigra) extract in
 low-density lipoprotein oxidation, J. Agric. Food. Chem., 46, 4091‐4096(1998)
22) J. Knight:Fending off the flu, Herbs for Health, September/October, 32‐33 (1997)
23) T. Ariga et al.:Antioxidative properties of procyanidins B-1 and B-3 from Azuki beans in aqueous
 systems, Agri. Biol. Chem., 52, 2717‐2722(1988)
24) A. M. Palmer et al.:Dietary antioxidant supplimentation reduces lipid peroxidation but impairs
 vascular function in small mesenteric arteries of the streptozotocin-diabetic rat, Diabetologia, 41,
 148‐156(1998)
25) A. M. Palmer et al.:Endothelial dysfunction in streptozotocin-diabetic rats is not reversed by
 dietary probucol or simvastatin, Diabetologia, 41, 157‐164(1998)
26) T. Matsui et al.:α-Glucosidase inhibitory action of natural acylated anthocyanins. 1. Syrvey of
 natural pigments with potent inhibitory activity, J. Agric. Food Chem., 49, 1948‐1951 (2001),
27) T. Matsui et al.:α-Glucosidase inhibitory action of natural acylated anthocyanins. 2. α-Glucosidase
 inhibition by isolated acylated anthocyanins, J. Agric. Food Chem., 49, 1952‐1956 (2001),

謝辞

 黒米の糠をご提供下さいました上森米穀店 上森惇・和子両氏に深く感謝いたします。







TOP