調査研究報告書

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  旭川大学女子短期大学部 生活学科 食物栄養専攻 教授/苅部 英寿


はじめに

 1998年厚生労働省は、日本において糖尿病とみられる人は推定690万人いると報告し、生活習慣の見直しを呼びかけた 1)。糖尿病を改善するためには運動療法、食事療法と薬物療法が取り入れられているが、カロリー計算による食事療法だけではなく、食品を利用した改善、そして、糖尿病にならないための予防医学を含めた食生活が必要となっている。
 キクラゲ、マイタケ、ガラクトマンナン、とうもろこし食物繊維や水溶性キトサンのような食品には、血糖値の上昇を抑制する作用をもつことが報告されており 2〜6)、食物繊維は血糖値上昇抑制作用を目的とする特定保健用食品にもなっている 7)。また、植物性色素のアントシアニンを多く含む機能性食品には、抗菌作用や糖尿病ラットの血糖値を降下させる作用があることも報告されている 8〜10)。
 現在、東神楽町および旭川市で寒冷耐性の北海道産黒米が生産・販売されている。黒米の糠部分は多くのアントシアニンを含有しているため、現在、この色素の生理機能の解析を行っている。
 今回、北海道産黒米の糠を用いて、糖尿病ラットに対する血糖値降下作用について検討した。

実験材料および試薬

 黒米(品種名「きたのむらさき」:上森米穀店)の糠、ウイスター系ラット(日本クレア)、固形および粉末飼料(標準飼料CE-2:日本クレア)、ストレプトゾトシン(STZ:シグマ)、血糖値測定器(アクチェックアクティブ:ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)、血糖値測定電極(アクチェックアクティブスティック:ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)、その他、使用した試薬はすべて特級試薬を用いた。

方法

糖尿病モデルラットの作製
・型糖尿病(・‐DM)ラットの作製:7週令の雄ウイスター系ラットにクエン酸緩衝液(pH 4.5)に溶解したSTZ(60mg/kg)を尾静脈内投与した。STZ投与2週目以降、尾静脈より採血し、血糖値が350mg/dl以上になったラットを実験に使用した。
・型糖尿病(・‐DM)ラットの作製と試験方法:出産1日目の雄性ウイスター系新生ラットにクエン酸緩衝液(pH 4.5)に溶解したSTZ(70mg/kg)を腹腔内投与した。7週令以降、耐糖試験を行った。耐糖試験は、一晩絶食したラットに蒸留水に溶解したブドウ糖液(2g/kg)または麦芽糖液(2g/kg)を経口投与し、経口投与直前(0分)、投与後30、60、120分の時点で尾静脈から採血し、血糖値を測定した。また、1または10%の黒米糠抽出液を含有させた同濃度のブドウ糖液(黒米糠抽出液含有ブドウ糖液)もしくは麦芽糖液(黒米糠抽出液含有麦芽糖液)を用いて、同様に耐糖試験を行った。
対照ラットとしてはSTZを投与しない同週令の雄性ラットを使用した。

血清値の測定
標準飼料または黒米の糠を10%含有した飼料(黒米糠含有飼料)を2週間以上自由摂取させた後、採血し、血清を分離した。トリグリセリド(TG)、総コレステロール(TC)、遊離コレステロール(FC)、HDLコレステロール(HC)、遊離脂肪酸(NEFA)、スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)およびインスリンはキット(和光純薬)により測定した。また、SOD測定の際には、市販のSOD(牛赤血球:シグマ)を標準物質として使用した。

統計処理はStatViewを用いてANOVA、paired またはunpaired t-testにより検定した。

結果

I‐DMラットに対する作用
 STZ投与後、血糖値が安定したI‐DMラット群に黒米糠含有飼料を2週間与え、1週間ごとに血糖値および体重を測定した。黒米糠含有飼料を与える前(0週目)の血糖値は、401.0mg/dlであった。黒米糠含有飼料を2週間与えることにより、血糖値は47.1mg/dl減少した。その後、標準飼料に戻したところ、血糖値は徐々に0週目の血糖値近くまで戻った(図1、表1)。また、黒米糠含有飼料を摂取している間に、体重が減少することはなかった(表1)。結果には示していないが標準飼料摂取量と黒米糠含有飼料摂取量の間にも差はなかった。
 白米の糠を含有した飼料においても同様の実験を行ったところ、白米糠含有飼料摂取後、2週目に一過性の血糖値の減少が見られた(表2)。

II‐DMラットに対する作用
 II‐DMラット群と対照ラット群の絶食後血糖値には有意な差は見られなかった(図2:0分値)。
 ブドウ糖液を経口投与(2g/kg体重)した耐糖試験では、II‐DMラット群における30、60および120分後の血糖値は、対照ラット群に比べ高かった。また、10%黒米糠抽出液含有ブドウ糖液を投与することにより、60および120分の血糖値は、ブドウ糖液のみの血糖値に比べ有意に抑制された。同実験を対照ラットに対して行ったところ、10%黒米糠抽出液含有ブドウ糖液投与による血糖値は、ブドウ糖液のみを投与した時の血糖値に比べ、有意な差は見られなかった(図2)。
 10%黒米糠抽出液含有または非含有ブドウ糖液の投与後120分までに上昇した血糖値の総量(△AUC)は、対照ラット群では差が見られなかったが、II‐DMラット群では黒米糠抽出液含有ブドウ糖液を投与した群において有意に減少した(図3)。
 1%黒米糠抽出液含有ブドウ糖液投与による△AUCは、ブドウ糖液単独投与の△AUCと変わりはなかったが、2週間1%の黒米糠含有飼料を摂取させ、その後、1%黒米糠抽出液含有ブドウ糖液を投与することにより△AUCの有意な減少がみられた。また、10%黒米糠抽出液含有ブドウ糖液についても同様の結果が得られた(図4)。
 麦芽糖液を経口投与(2g/kg体重)した耐糖試験では、対照ラット群およびII‐DMラット群とも10%黒米糠抽出液含有麦芽糖液を投与した血糖値と比較しても有意な差はなかった(図5)。また、このときの△AUCも、黒米糠抽出液含有および非含有間に有意な差はみられなかった(図6)。

I‐およびII‐DMラットの随時血糖値に対する作用
 II‐DMラットに黒米の糠を含有した飼料を2週間与えることにより、血糖値は30mg/dl減少し、血清インスリン量は126pg/ml上昇した(表3)。
 I‐DMラットにおける血清TG、TC、FCおよびNEFAは、対照ラットの値に比べ上昇していた。10%黒米糠含有飼料を2週間与えることにより、これらの値に改善傾向がみられた(表4)。
II‐DMラットにおける血清TGおよびTCは、対照ラットの値に比べ上昇していたが、10%黒米糠含有飼料を2週間与えることにより、これらの値にわずかではあるが改善作用がみられた(表4)。

考察

 糖尿病発症の原因の一つに酸化ストレスがあり、この酸化ストレスによる活性酸素等のラジカルが膵臓機能に障害を与えると言われている11〜13)。今回、使用したSTZは、メチルラジカルを発生し、ラジカルに弱い膵臓のB細胞を特異的に破壊することが知られており、成熟動物に静脈内投与することにより高血糖そして体重減少を伴うI‐DMモデルを作ることができる薬物である11)。また、STZは出生直後の動物に投与すると成長した際、耐糖能が著しく低下することが知られており、この病態がII‐DMに類似していることからII‐DMモデルを作製するためにも使用されている11)。
 ポリフェノールの一つであるアントシアニンは、心血管病に有効であることが報告されている14)。また、穀物、果実、野菜類などに含有しているアントシアニンには、心血管系の病気に対する改善作用、抗菌・抗ウイルス作用や抗酸化作用があることも報告されている14〜23)。五種類の黒い食品を粉末化した機能性食品の黒五にも抗菌活性や血糖値に対する作用があることが報告されている8〜10)。
 今回、アントシアン系色素を含む黒米の糠を用い、糖尿病の血糖値に対する作用について検討した。
I‐DMラットに対して、1週間以上黒米糠含有飼料を与えることにより血糖値が減少し、標準飼料に戻すことにより黒米糠含有飼料摂取前の血糖値まで戻ったこと(図1、表1)、そしてI‐DMラットに対しては耐糖能が改善されたこと(図2、3)から、黒米の糠には血糖値の上昇を抑制する作用があることがわかった。また、この耐糖能の改善作用は、黒米の糠を摂取し続けることにより、さらに改善作用が増強される結果が得られた(図4)。白米の糠にはこのような作用は見られなかった(表2)ことから、糠に含有している食物繊維などによる作用というよりは、黒米が含有しているアントシアン色素などの成分による作用と考えられた。





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