調査研究報告書

HOME





  北海道大学衛生研究所 研究職員/斉藤 明子
  北海道大学大学院 農学研究科 教授/原 博


はじめに

 平成13年度の国民栄養調査1)によると、日本人の1日当たりの亜鉛摂取量は、6次改定日本人の栄養所要量を下回っており、この傾向は特に高齢者層に顕著であった。 高齢者における亜鉛の欠乏は免疫能の低下による創傷の治癒の遅延や易感染症などと関連があると指摘されている2-4)。しかしながら、亜鉛は生体内恒常性が強く働いていることに加え、その栄養状態を知るための明確な生体指標が確立されておらず、必要量に関しては議論のあるところである。
 一方、たんぱく質の摂取不足も細胞性免疫を低下させる5)。臨床栄養学的には、双方の関連は深く、亜鉛の吸収にはたんぱく質の関与が重要なことから、たんぱく質の摂取不足が亜鉛不足を招き、亜鉛不足による細胞性免疫の低下から、感染性の腸炎に罹患したり、あるいは、亜鉛不足による腸管免疫の低下から腸管に炎症を引き起こしたりすると、たんぱく質および亜鉛の吸収を妨げて、亜鉛欠乏、たんぱく質欠乏の状態を増長させる、などが想定される。昨今の日本人でみられる亜鉛欠乏およびたんぱく質欠乏は軽度であると推測されるが、これらの両栄養素の軽度な欠乏が互いにどう関連しているかについて詳細な報告は見当たらない。そこでまず、本研究では、両栄養素とも極端な体重増加の減少がない程度の欠乏としたとき、それらの栄養欠乏が細胞性免疫に質的量的にどのように関蓮しているかを検討することとした。

方 法

1. 実験動物と実験飼料
 4週齢のSD系雄ラットを(株)SLCより購入し、3日間の訓化の後、体重を基準に6群(各群8匹)に群分けした。試験飼料は、低たんぱく質と標準たんぱく質の2段階に対し、各飼料亜鉛レベルを3段階(severe deficient, marginal deficient, adequate) 設定した。組成を表1に示す。飼料組成の基本はAIN93Gとし、たんぱく質源として卵白を使用したためビオチンを添加した。ミネラル混合はAIN93Gから亜鉛を除き、炭酸亜鉛をデキストリンに混合したものを飼料作成時に添加した。

  各ラットは個別ケージで飼育し、飼料と超純水を自由に摂取させた。毎日一定時間に、体重と摂食量を測定した。
 3週間の飼育期間の終了5日前から終了日まで糞を採取した。飼育終了日、ネンブタール麻酔下で開腹し、腹部大動脈より採血し、血清分離用とリンパ球分離用に分注した。さらに、脾臓、肝臓、胸腺を摘出し各重量を測定し、脾臓および胸腺は、それぞれ無菌的に細胞を調製した。
 動物実験に関しては、北海道立衛生研究所動物実験指針に従った。

2. 分析
 みかけの亜鉛吸収量;採取した糞は凍結乾燥し、多検体細胞破砕器マルチビーズショッカー(安井器械)で粉砕した。その一部および各飼料の一部をとり、硫硝酸による湿式灰化を行った。これらの試料について、Spectra AA-220 Spectrophotometer (Varian, CA, USAハ)を用いたフレーム式原子吸光光度分析法により、亜鉛を測定して算出した。
みかけのたんぱく質吸収量;粉砕した糞と各飼料の一部について、ケルダール法にて窒素含量を定量して算出した(窒素-たんぱく質係数;6.25)。
 血清中の亜鉛含量;和光純薬社製の高感度比色試薬2-(5-ブロモ-2-ピリジルアゾ)-5-(N-プロピル-N-スルホプロピルアミノ)フェノールナトリウム(5-Br-PAPS)を使用した測定キットZn-テストワコーを用いて測定した。
 血清中アルブミン量;和光純薬社製のブロムクレゾール法のキット、アルブミンB-テストワコーを用いて測定した。
 血清中コルチコステロン濃度;DSL社製の競合ELISA法によるキット、Rat Corticosterone EIA (DSL-10-81100)を用いて測定した。

3. Tリンパ球サブポピュレーション
 胸腺細胞は、細胞数を1x106 cells/mLになるように、SM(staining medium、染色溶媒):PBS、3%FCS、0.05%NaN3に懸濁し、その1mLに対して、モノクローナル抗体RAT-CD8抗体(FITC標識、クローン OX-8)およびRAT-CD4抗体(PE標識、クローン W3/25)を各10uL添加した。これを2チャンネルフローサイトメトリー(COULTER EPICS)で解析した。

4. 脾臓リンパ球増殖反応
 脾臓細胞は、細胞数を1x106 cells/mL になるように、RPMI1640(10%FBS, 1%Antibiotics solution)中に懸濁し、96穴ウェルマイクロプレートに100uμLずつ、ConAは、5μg/mLに調製し100μLずつ分注した。このプレートをCO2インキュベーターにて(37℃、5%CO2)、120時間培養した。培養終了16時間前に、メチル-3H-thymidineを20μLずつ(最終濃度 1μCi)分注した。培養後、ハーベスターにて細胞を回収し、液体シンチ液に入れ、液体シンチレーションカウンターにて、β腺のcount per minute (cpm)をカウントした。
以下の式による刺激指数(stimulation index; SI)を算出した。
 SI = (刺激時のcpm)/(非刺激時のcpm)

統計処理
 統計処理は、StatView 4.5 (SAS Institute, Cary, NC) にて、たんぱく質と亜鉛の交互作用についてTwo-way ANOVAを行った後、各群間の有意差について、SASプログラム (SAS Institute, Cary, NC)のDuncanの多重比較検定を行った。棄却検定はSASプログラムを用いた。

結果と考察

1. 体重、摂食量および臓器重量
 3週間の飼育後の体重および摂食量におよぼす飼料中の亜鉛およびたんぱく質の含量の影響を表2に示した。飼料中5%、15%のたんぱく質レベルにあっては、体重および摂食量はこのレベルに有意に依存し、亜鉛レベルのみには影響していなかった。また、たんぱく質と亜鉛の交互作用も認められなかった。標準たんぱく質群内では、5mg/kg群では10mg/kg群に比べ、有意に体重が減少していた。

 胸腺、肝臓および脾臓の各臓器の重量と体重当たりの重量におよぼす飼料中の亜鉛含量およびたんぱく質含量の影響を表3に示した。各臓器ともその重量には飼料中のたんぱく質レベルのみ影響した。肝臓重量および体重あたりの肝臓重量は、標準たんぱく質群内で、5mg/kg亜鉛群と10mg/kg亜鉛群に有意な差がみられた。





TOP