調査研究報告書

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研究結果

1.エネルギー摂取量および安静時代謝量・バイタルサイン
 日本肥満学会の定義により、BMI 18.5未満の低体重を“やせ(痩身)”、25.0以上を“肥満”として被験者を分けたところ、痩身が9名、通常の範囲にあるもの(対照)が18名で“肥満”のものはいなかった。
 対照と痩身の間では身長に差はみられなかった。体重、BMI、体脂肪率には有意な差(p<0.001)が見られた(表1)。
 安静時の鼓膜温、脈拍に関しては差が見られなかった。血圧では収縮期血圧には差がなかったものの拡張期血圧は痩身で高く(p<0.05)、拡張期血圧+(脈拍/3)で求めた平均血圧にも有意に近い差(p≒0.05)が見られた。また、体重1Kg当たりの安静時代謝量は痩身で高い傾向があった(表2)。
 1日当たりのエネルギー摂取量は両グループとも必要量を下回っており、有意な差はないものの痩身の方が低い値であった。また、タンパク質、脂質、炭水化物の各栄養素の摂取量およびエネルギー摂取に対する割合においても差はなかった(表3)。
2.寒冷末梢血管拡張反応ならびに寒冷昇圧反応
 寒冷末梢血管拡張反応について見ると、安静時皮膚温には両グループ間で差がなかった。指を冷水につけると皮膚温は急激に低下した後、ある時点で上昇し、その後は一定範囲内で下降と上昇を繰り返すが、両グループで似た変動パターンを示しており(図1)、上昇時間、上昇温度、冷水浸漬後、5分から30分の間の最高皮膚温、最低皮膚温、平均皮膚温のいずれにも差が見られなかった。また、抗凍傷指数は両グループとも低い値であり、グループ間で差はなかった(表4)。
 一方、寒冷昇圧反応を見ると、どのグループでも冷水刺激により収縮期、拡張期血圧とも上昇し(p<0.05-0.001)、刺激終了後は急速に回復して1分後には刺激前のレベルに戻っていた(表5)。
安静時からの変化量を見ると収縮期では寒冷刺激により、対照、痩身でそれぞれ13.0±2.15、18.3±3.57 mmHg上昇し(それぞれp<0.05およびp<0.001)、刺激終了後は急速に回復して1分後には安静時レベルに戻り、更にリバウンドして2分後にはそれぞれ5.7±1.62、4.7±1.65 mmHg安静時レベルを下回っていた(ともにp<0.001)(図2)。拡張期でも同時に冷水刺激により対照、痩身でそれぞれ13.8±0.86、16.9±2.85 mmHg上昇し(ともにp<0.001)、刺激終了1分後には安静時レベルまで戻った。刺激終了2分後には対照ではやはりリバウンドが見られ、4.1±1.81 mmHg低下したが(p<0.05)、痩身ではそれ以上低下せず安静時レベルより0.8±3.61 mmHgと高いレベルにとどまった(図3)。一方、脈拍は対照、痩身とも冷水刺激で上昇する傾向が見られたが、刺激終了後は安静時のレベルを示した(表4)。
3.カテコールアミンの代謝
 体重1Kg・1日当たりのバニルマンデル酸の尿中排出量は対照で55±3.3、痩身で60±3.9μgと痩身で高い傾向があったが、有意な差は見られなかった。

考 察

 近年、若い女性で“やせ”に対する志向が強くなっており、“やせ”の割合は20年前と比較して増加している。また、若い女性では基礎代謝が低くなってきており、さらにやせている人ではエネルギー摂取量が1日に必要な量を下回っていることが示されている2)。
本研究でも対照、痩身ともエネルギー摂取量 1日が必要な量を下回っていることが示され、先の報告8)でも今回と同様の結果が示されたことから若い女性でのエネルギー摂取不足は一般的な現象であることが推察される。また、先の結果では痩身では対照と比較し脂質摂取量が少なく、炭水化物摂取量が多かったが、本研究ではこのような差は見られていない。
また、先の報告8)同様、今回の研究においても痩身と対照でエネルギー摂取量に差が見られていないにもかかわらず、BMIに差が見られている。この原因として、痩身では代謝が高いこと、すなわち、エネルギー消費が多いことが考えられる。そこで、安静時代謝を比較したところ、有意な差ではないものの痩身の方が高い値を示しており、この可能性が支持されている。1日の代謝量を比較すればもっと明確な結果を得られるものと考えられる。
代謝は自律神経系および内分泌系による調節を受けており、自律神経系の交感神経活動によって促進されることから痩身では交感神経活動が亢進していることが考えられる。事実、交感神経活動の指標として寒冷末梢血管拡張反応を調べた著者らの先の報告では、痩身でこの反応が起き難いことから交感神経の活動が持続的に亢進していることが示唆されている8)。本研究では対象グループで寒冷末梢血管拡張反応が低いため、グループ間では差は見られていないが。今回、差が見られなかったのは対照の被験者が痩身に近い体型であったことによるものと推察される。寒冷暴露中に見られる皮膚温の上昇は手首、耳朶、足趾の皮膚に存在する動静脈吻合が拡大して血流が増加することで起こるものであり、周囲の組織を暖めるのに役立っている。この反応は寒冷障害に対する局所防御であり10)、若い女性では全体的に寒冷に対する末梢組織の耐性が低く、冷え性になりやすいことが考えられる。一方、本研究では安静時の拡張期血圧が痩身グループで有意に高いことが示されている。血圧=心拍出量×末梢血管抵抗で表され、このうち心拍出量が収縮期血圧の、末梢血管抵抗が拡張期血圧の決定要因になる。血管の弾性は加齢、動脈硬化などによって変化する11)が、平常の状態では末梢血管の収縮をコントロールしている交感神経の活動状況によって変化することから、拡張期血圧が高いことは血管がより強く収縮している、すなわち、血管を収縮させる交感神経の活動が亢進していることを示していると考えられる。
さらに寒冷末梢血管拡張反応よりも全身的な交感神経活動の指標として期待される寒冷昇圧反応で、寒冷刺激時の血圧上昇のリバウンドとして刺激終了後に起こる血圧低下は強い交感神経活動の反動として、その活動が平常状態以下になるために起こると考えられる。痩身の拡張期血圧でそれが見られないことは、このグループでは交感神経活動が持続していることを示唆している。また、収縮期血圧の変化を基にした判定によると上昇が9 mmHg以下が低反応者、10-19 mmHgが正常反応者、20 mmHg以上が高反応者とされている12)。今回の被験者をこの基準にしたがって分類すると対照では低反応者が5人(27.8%)、高反応者3名(16.7%)であるのに対して、痩身では低反応者が1人(11.1%)、高反応者が4人(44.4%)であった。このことは痩身では寒冷刺激時の心拍出量の増加度が大きいとともに血管が強く収縮する者が多いことを示している。
交感神経の伝達物質であるノルアドレナリンは代謝されて最終的にバニルマンデル酸となって尿中に排出される。尿中バニルマンデル酸のレベルは交感神経活動が高まっているものでは高いことが報告されており13)、全身的な交感神経活動の指標とすることができる。本研究で、尿中バニルマンデル酸量が痩身で高い傾向があったことは、このグループでは全身的に交感神経活動が亢進している可能性を示している。

結 論

 本研究の結果は、“やせ”の人では交感神経活動の亢進が見られ、自律調節機能が変調を受けていること、および若い女性では通常状態であってもエネルギー摂取不足から“やせ”に近い状況になっていることを示している。若い女性で見られるエネルギー摂取不足による自律機能の変調は体温低下や性ホルモン分泌の乱れによる月経の異常に加えて免疫力の低下による生体防御力の低下をもたらしている可能性がある。心身ともに健康な身体を保つために若い女性で顕著な“外形上の誤った美しさに対する志向”を正して行くことが重大な課題であり、この点において、個人の栄養状態を良くし、望ましい食習慣をもつことが重要であると考えられる。

謝 辞

本研究を遂行するにあたり、ご援助頂きましたに厚くお礼申し上げます。

文 献

1)健康・栄養研究会 編:国民栄養の現状−平成10年国民栄養調査結果,第一出版,東京
  2000,45-46
2)石川和子,黒澤裕子,加藤知佳,宮澤史恵,万木良平:女子学生の基礎代謝について
  女子栄養大学科学研究所年報1,141-144,1993
3)糸川嘉則:栄養の生理学,裳華房,東京,1995,p23-31
4)越山香里,広田孝子,石丸香織,楠 知子,広田憲二:低脂肪率の若年女性の骨密度低下
  と生活因子の検討 第55回日本栄養・食糧学会大会講演要旨集:112,京都,2001
5)吉植庄平:体温調節の仕組み,文光堂,東京,1995,210-220
6)切池信夫:摂食障害,医学書院,東京,2000,51-87
7)坂本元子,西岡久壽弥:バイオフィラキシー,朝倉書店,東京,1990,101-115
8)小平洋子,辻 玲子,太田 徹,八幡剛浩:若年女性におけるやせが自律調節機能に及ぼす影響,日本
 食生活学会誌,12:242-247,2001
9)Yoshimura H. and Iida T.:Studies on the reactibity of skin vessels to extreme cold.
 Part ・ A point test on the resistance against frost bite. Jpn. J. Physiol. 1:147-
 159,1951
10)Levis, T.:Observations upon the reactions of the vessels of the human skin to cold.
 Heart 15:117-208,1930
11)中野昭一,清水勘治,国分真一郎:図説・ヒトのからだ,医歯薬出版,東京,1991,89-91
12)富沢修一:自律神経機能試験 寒冷昇圧試験,小児内科32:786-787,2000
13)Kuroshima,A., M.Kurahasi, K. Doi, T. Ohno and I.Fujita: Jpn. J.Physiol.24,277-292,
 1974






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