調査研究報告書

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  市立名寄短期大学 生活科学科 教授/太田 徹
  市立名寄短期大学 看護学科 教授/八幡 剛浩


はじめに

 近年、若い女性の「やせ」に対する意識が強く、細身の傾向にあることが認められている。国民栄養調査によると若年女性の「やせ」の割合が増加し、20歳代では5人に1人が「やせ」であると判定されている1)。また、若い女性の基礎代謝は以前より低くなっており、更にやせている人ではエネルギー摂取量が必要な量を下回っていることが示されている2)。
 栄養素の摂取不足は代謝を低下させることから種々の身体機能に悪影響を与えることが考えられる。また、極度の「やせ」では種々疾病の発症率の上昇・重篤化3)や骨密度の低下4)が報告されており、拒食症では体温の低下5)や性ホルモン分泌の乱れによる月経異常6)が認められている。これらのことは栄養素摂取不良につながる極度の痩せにおいては免疫力の低下7)に加えて生命を維持するために働いている自律機能が損なわれる可能性を示唆している。最近、著者らは若者の望ましい栄養素摂取状態を確立するためのステップとして「やせ」が生体機能に及ぼす影響を明らかにする一環として、寒冷末梢血管拡張反応を指標として自律機能に及ぼす影響を検討したところ、「やせ」では交感神経活動が亢進していること、また、寒冷障害に対する局所性の防御がうまく働かないことを示し、冷え性や神経痛の発症・増悪の可能性を高めることを示した8)。このことは「やせ」による身体の種々機能の変調、特に抵抗力の低下に伴う生体防御能力の低下という問題を提起している。また、生体自律機能の変調や過度のストレスに対する反応が不定愁訴の要因として作用していることも考えられる。
 本研究ではこれらの点を明らかにするために「やせ」と普通体型の女子学生を対象にエネルギー摂取量、安静時代謝量、および交感神経活動の指標として寒冷末梢血管拡張反応に加えて寒冷昇圧反応とカテコールアミン代謝産物であるバニルマンデル酸の尿中排泄量について調べた。

研究方法

測定は本学生活科学科栄養専攻および看護学科の1・2年生の女子学生27名(19.5±1.43才)を対象に行った。
1.食事調査
 食事調査は通常の生活している3日間について食事調査を行い、エネルギー摂取量およびタンパク質・
 脂質・炭水化物の摂取量を算出した。
2.バニルマンデル酸の測定方法
 カテコールアミン代謝産物であるバニルマンデル酸量は6N塩酸を加えたボトルに1日尿を採取し、尿量を
 計測した後にその一部を測定まで-70℃で保存し、高速液体クロマトグラフィーにて測定した。
3.安静時代謝量、寒冷末梢血管拡張反応および寒冷昇圧反応の測定
  測定は反応の日内変動および食事による影響を避けるために、オーバーナイトの絶食の後の午前中に
 実施した。25〜27℃の室温下で30分間の椅座位安静の後、携帯用簡易熱量計(METAVINE-N,VINE社,
 東京)で安静時代謝量を2回測定した。続いて自動血圧計(オムロン HEM-740ファジー,オムロン,東京)で
 鼓膜温を5回測定した。安静時代謝量、血圧・脈拍については平均値を,鼓膜温については安定した段階
 の値を求めた。
  次いで、寒冷末梢血管拡張反応を調べるために15分間安静にさせた後、右手の中指瓜床上皮膚部に
 サーミスター温度計(タカラ K923,テクノ・セブン,横浜)のセンサーをサージカルテープで固定し,テープの
 周囲の隙間にワセリンを塗布した。室温下で皮膚温が安定した後、0℃の氷水中に第2関節まで浸けて30
 分間、さらに氷水から引き上げて水分をふき取った後に10分間、計40分間の皮膚温の変化を30秒間隔で
 測定した。氷水の温度は容器に氷の小片を充分に入れ、スターラーで静かに攪拌することで0℃を保った。
  寒冷昇圧試験はさらに15分間安静に保たせた後に測定部の反対側前腕を肘関節まで4℃の冷水中に
 浸けて1分後、更に冷水から腕を取り出して1分後と2分後の計4回血圧と脈拍を測定した。なお、冷水から
 取り出した腕の水分は圧迫を加えないようにして拭き取った。
  全測定終了後、インピーダンス法による体脂肪計(タニタ TBF101,タニタ,東京)によって、排尿後の体脂
 肪率を測定した。
4.寒冷末梢血管拡張反応の測定結果の評価
 測定結果を評価するために以下の数値を求めた。
 平均皮膚温 :氷水浸漬開始後5分から30分までの25分間の平均温度
 最高皮膚温 :上記時間の間の最高温度
 最低皮膚温 :上記時間の間の最低温度
 上 昇 時 間:氷水浸漬中、皮膚温が最初に上昇するまでの時間
 上 昇 温 度:上昇時間における温度
 抗凍傷指数 :下記の基準による点数の和を求め、3〜9点で表した9)

5.統 計
 結果は平均値±標準誤差で示し、有意差の検定は分散分析およびスチューデントのt検定によって行った。p値が0.05より大きいものは有意差なし(NS)とした。





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