調査研究報告

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 (2)白色脂肪組織重量の変化
 ラットの体重に対する白色脂肪組織重量の結果については、コントロール食を与えたラットより、イワシ油食に効果が見られ、イワシ油食の中でもさらに熱を加えない低温油食を給餌したラットにおいて、体重あたりの脂肪組織重量が顕著に低値を示していることが分かる(図4)。さらにこのことはマウスにおいても同様のことが示され(図4)、このことからも、イワシ油の中でもすり身排液を活用した低温油に強い抗肥満作用があるものと考えられる。

(3)血漿脂質の変化
 イワシの市販油よりもイワシ低温油の方が高い機能性が示唆されることは、各種血漿脂質の結果からも認められた(図5)。図5から分かるよう、大豆油コントロール食を与えるよりも、2種類のイワシ油を給餌することによって大きく総コレステロール、中性脂質、総脂質の値が減少した。そして各血漿脂質においてもすり身排液による低温油がよりその効果を示している。血漿脂質における魚油の効果は、EPAやDHAなどのn‐3系高度不飽和脂肪酸によるものと知られている。従ってここで示す血漿コレステロールおよび中性脂質等におけるイワシ油各種の減少効果も、これらの飼料油に含まれるEPAやDHAによるものと推測できる。しかしながら、表2に示したように飼料に用いたこれらの市販油と低温抽出油の間では、EPAおよびDHA等の脂肪酸含量に大きな違いは認められず、そのことから、市販油と低温抽出油との間の活性の違いには、それ以外の理由が関与しているものと思われる。
 次に各種イワシ油の血漿脂質に及ぼす効果をマウスについても検討した(図6)。マウスにおける各血漿脂質に対する低温抽出食の作用は、ラットの場合と同じことが言えた。つまり2種のイワシ油食は総コレステロール値を減少させ、それはさらに低温イワシ油飼料において著しく認められた。

 中性脂質のレベルでは、低温イワシ油のみに減少効果が確認された。そしてさらに血糖値についても測定した結果、コレステロール値と同様、低温抽出イワシ油を給餌したマウスが最も高い減少効果を示したのである。
 EPAおよびDHAなどの高度不飽和脂肪酸の機能性については、すでに数々の報告があり、そのためこれらを多く含む魚油への関心は高い。しかし本研究で開発した化学的精製処理を施さず、すり身排液を利用して分離回収した低温魚油は、一般的に高温化学処理を施し回収されている市販の油脂に比べ、EPAやDHAの含有量に大きな差が認められなかったにも関らず、極めて安定的な高い栄養性が確認された。
 このことより本来魚油が持つ栄養効果に対し、油脂の製造工程が大きく左右することが明らかとなった。市販油脂では製品化するにあたり、脱水、脱色、脱臭、といったさまざまな精製工程が加わる。こうした高温化学処理はEPAやDHAが持つ栄養効果の低下を招く恐れがあり、本来魚油に含まれる微量な活性成分までも消失させる可能性も考えられる。また高い熱をかけることによるEPAやDHA由来のトランス酸が生じることも有得る。従って、本研究によって開発されたすり身排液を有効利用し低温状態で回収する技術には、極めて自然に近い状態で魚油に含まれる有効な活性成分を存在させるものと考えられ、食品化学的にも栄養化学的にも大変優れた効果が期待させる。

4.まとめと結び

 現在一般的に行われている魚油の回収方法は、魚体を丸ごと蒸し煮する、いわゆる煮取り法が用いられている。 しかし、この方法では魚体を100℃近い温度で蒸し煮した後、圧搾をかけて得られた粗油に、さらに高熱を加え精製処理が施される。その上、粗油だけでは食用には適さないため、デガミング、脱酸によるアルカリ処理、脱水、脱色、脱臭といった化学的精製操作も繰り返し施される。こうした化学的熱処理は、油脂の酸化を促進させ、劣化が進む原因につながるだけではなく、栄養効果を低下させる恐れもある。そのことからも熱を加えずに出来るだけ天然に含まれる油そのものを分離回収する方法が重要であり、質の高い油脂の回収方法の開発が必要である。そこで私たちはすり身を製造する際に生じる排液から低温状態で油脂を回収する方法を開発した。この回収方法を用いることで、従来の煮取り法で回収された魚油と比べて酸化安定性が高いことが確認された。
 また、高温処理を行う煮取り油中には、酸化を促進するといわれるDHA・EPA由来の共役不飽和脂肪酸の存在が示唆されている。さらに、煮取り油では煮取った油脂を再び減圧蒸留などを用いて精製することで、トランス酸などの副生成物の生成も予想される。低温油と煮取り油におけるトランス酸の含有量を測定したところ、微量ではあるが低温油の方が含量が少なかったことから、こうした生成成分も酸化安定性を妨げるだけではなく栄養効果も損なう可能性が高い。
 そこで本研究では動物実験を行って、酸化安定性が高いことが生体にも優れた栄養性を示すものか検討した。ラットおよびマウスを用いて大豆油食をコントロール群に、各種イワシ油を飼料食として給餌。4週間飼育後体重、肝臓重量、白色脂肪組織重量を測定した他、さらに腹部動脈より採血を行って、総コレステロール、中性脂質、総脂質の血漿脂質を測定した。またマウスについては血糖値についても確認した。その結果は、飼料食の低温油と煮取り油より調製した市販油では、その脂肪酸組成に大きな違いはみられなかったものの、低温油を給餌したラットおよびマウスの体重あたりの白色脂肪組織重量は著しく低かった。そのことから低温油における抗肥満効果が明らかとなった。そして各種血漿脂質および血糖値に対しても同様に、低温油食を投与した群がコントロール食、市販油食に比べて著しく低値を示した。これらの結果より低温油は市販油脂に比べて、内臓脂肪低下作用、血漿脂質改善作用、抗糖尿病作用など栄養性が高いことが分かった。これらは魚油中に含まれる多価不飽和脂肪酸の指摘されているさまざまな機能性効果と重複しており、魚介類そのものの栄養性が阻止されることなく、利点のみを有効的に最大限発揮されていると考えてよい。従って、すり身排液より回収した魚油の優れた栄養性については、1.栄養性を妨げるトランス酸が生成されていないことが栄養効果を高めている可能性。2.低温抽出イワシ油は熱をかけないで製造するため、本来魚油が持つ機能性の成分の損失が少ない。3.低温抽出イワシ油には水溶性の微量栄養機能性成分が含まれる。以上のことが考えられる。
 これらより、イワシすり身排液から得られる低温油はエネルギーパフォーマンスの点でも、また、酸化安定性の点でも、さらには栄養的にも優れた油脂と考えられた。また開発した魚油の回収法は、単に品質の良い魚油の回収だけにとどまらず、排水の浄化、未利用資源の有効活用といった観点からも画期的な技術開発といえる。

5.参考文献

1) Li,D.:Bode,O.:Drummond,H.:Sinclair,A.J.Omega-3(n-3)
 fatty acids. In Lipids for Functinal Foods and Nutraceuticals; Gunstone. F.D.,Ed.: The Oily Press:
 Bridgwater,England, 2003; pp 225-262.
2) Shimizu. Y.: Toyohara. H.: Lanier, T.C. Surimi production from fatty and dark-fleshed fish specied.
 In Surimi Tecnology, Lanier, T.C., Lee, G.C.Eds.: Marcel Dekker: New York,1992; pp 181-207.
3) Bligh, E.G.: Dyer. W.J.A rapid method of total lipid extraction and purification. Can. J. Biochem.
 Biophysiol. 1959,37,911-917.
4) 菅野 道廣 :「あぶら」は訴える 油脂栄養論, 講談社, 2000.
5) 菅野道廣:オレオサイエンス,Vol.3,No.8,387-392(2003)
6) 宮下和夫:日本食品科学工学会誌,Vol.43,No.10,1079-1085(1996)
7) 戸谷洋一郎:日本油化学会誌,Vol.46,No.1,3-15(1997)
8) 豊島琴恵,竹中篤史,宮下和夫,高橋力一:第41回日本油化学会大会講演要旨,p.205(2002)
9) 豊島琴恵,竹中篤史,山本華菜子,宮下和夫:第57回日本栄養食糧学会大会講演要旨,p.53(2003)





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